この記事では、中小企業診断士の二次試験科目「事例4(財務・会計)」の内容や勉強法を紹介します。
本記事の内容
- 事例4(財務・会計)の内容
- 事例4(財務・会計)の勉強法
- 事例4(財務・会計)攻略のポイント
本記事の信頼性
本記事は、約200時間の学習で中小企業診断士試験にストレート合格した中小企業診断士が執筆しています。筆者の勉強法は企業経営の専門誌「月刊 企業診断」(2021年12月号)でも紹介されています。

月刊 企業診断(2021年12月号)より抜粋
この記事を読めば、二次試験攻略のカギとなる「事例4(財務・会計)」の内容と、合格に向けた勉強のコツがよく分かるようになりますよ!
もくじ
事例4(財務・会計)の内容
ここからは、事例4(財務・会計)の内容として、以下を解説していきます。
- 出題形式・配点
- 出題範囲(テーマ)
- 受験免除の要件
- 合格に必要な勉強時間
出題形式・配点など
満点 | 100点 |
形式 | 論述式 |
試験時間 | 80分 |
事例4(財務・会計)は、論述式で100点満点の科目です。
試験時間は80分。
二次試験の最後に行われ、かつ合否を大きく左右する科目です。
解いているときの緊張感は、中小企業診断士の試験の中でも一番の科目と言えます。
4つの問題で構成される年が多く、1問あたりの配点は25点前後です。
たとえば、令和2年度(2020年度)の設問構成は以下の通りでした。
問題 | 設問数 | 配点 |
第1問 | 2 | 25点 |
第2問 | 2 | 30点 |
第3問 | 2 | 20点 |
第4問 | 3 | 25点 |
だいたい、このようなボリュームで出題されます。
大半が計算問題ということを考えると、短時間で非常に多くの問題を解かないといけないことが分かりますね。
ちなみに、事例4では電卓を使うことができます。
というか、電卓無しだと絶対に時間が足りなくなるので注意しましょう。
ただし、以下のような電卓はNGです。(毎年、二次試験の案内に載りますので目を通しておきましょう)
a.関数電卓
b.プログラムの入力機能や記憶機能を持つもの。
c.電子手帳・携帯電話などに付属する電卓。
d.記録紙の出るもの。
e.他の受験者の妨げになるような音の出るもの。
f.電源コードを使用するもの。
なお、おすすめの電卓は以下の記事で紹介しているので、あわせてご覧ください。
-
-
中小企業診断士試験に持ち込み可能な電卓おすすめ3選
続きを見る
出題範囲
事例4(財務・会計)の出題範囲について解説します。
事例4(財務・会計)で出題されるテーマは以下の6つです。
- 経営分析
- 損益分岐点分析(CVP)
- 意思決定会計
- セグメント別会計
- キャッシュフロー分析
- その他計算問題
大半は計算問題ですが、中には文章で答える「記述問題」も出題されます。
後ほどお話ししますが、「記述問題」は他の科目と比べると簡単なので、得点源にしたいところです。
受験免除の要件
二次試験の受験を免除する制度はありません。
ただし、一次試験の合格者が「養成課程」と呼ばれる予備校のようなものを修了することで、二次試験を経ずに中小企業診断士として登録できる制度があります。
くわしくは、中小企業診断士の養成課程とは?をご覧ください。
合格に必要な勉強時間
合格に必要な勉強時間は、最低でも30時間以上と考えましょう。
事例4(財務・会計)に合格するためには、少なくとも15年分の事例を演習することが望ましいです。
1事例に2時間(80分で解く+40分で復習)かけるとして、15事例×2時間30時間が必要です。
計算問題に苦手意識がある方は、2~3周繰り返す必要があるため、さらに勉強時間が増えます。(60~90時間)
二次試験は事例4がカギ
実は、事例1~3は、ある程度の演習を重ねればどの受験生も同じくらいのレベルに達します。
ところが、事例4はやった分だけどんどん得点力が伸びていきます。
そのため、事例4は他の科目よりも時間をかけて勉強することが大切です。
二次試験の合否を分けるのは事例4です。
次の章からは、事例4(財務・会計)の勉強法を紹介していきます。
事例4(財務・会計)の勉強法
事例4(財務・会計)の基本的な勉強は、以下の4つのステップで行います。
- 解法や基礎知識を整理する
- 問題を用意する
- 問題を解く
- 復習する
くわしくは下記の記事で解説しているので、あわせてご覧ください。
-
-
【50時間で合格した勉強法】中小企業診断士2次試験の内容・対策
続きを見る
事例4(財務・会計)攻略のポイント
ここからは、事例4(財務・会計)の試験を攻略するためのポイントとして、次の3つをお話しします。
- 経営分析は絶対に落とさない
- 意思決定会計は難しければ捨てる(部分点を狙う)
- 記述問題を得点源にする
①:経営分析は絶対に落とさない
事例4(財務・会計)では、第1問に必ず経営分析の問題が出題されます。
経営分析とは、事例企業の貸借対照表・損益計算書をもとに、以下の分析を行う問題です。
- 収益性(売上から利益を出せているか)
- 効率性(資産を売上につなげているか)
- 安全性(支払能力はあるか、資金調達は安全か)
「事例企業VS同業他社」または「今年の業績VS昨年の業績」で比較するケースがほとんどです。
経営分析は、なれれば比較的簡単に解けるため、絶対に落としたくない問題です。
私は、経営分析の問題は以下の5つのステップで回答することをおすすめしています。
【step1】設問の要求事項の把握
【step2】収益性の指標選定
【step3】効率性の指標選定
【step4】安全性の指標選定
【step5】記述問題の回答
ここからは、実際の問題をサンプルに、各ステップの内容をくわしく解説していきます。
D社と同業他社の財務諸表
設問文
第 1問(配点 24 点)
(設問 1 )
D 社と同業他社の財務諸表を用いて経営分析を行い、同業他社と比較して D 社が優れていると考えられる財務指標を1つ、D 社の課題を示すと考えられる財務指標を2つ取り上げ、それぞれについて、名称を⒜欄に、その値を⒝欄に記入せよ。なお、優れていると考えられる指標を①の欄に、課題を示すと考えられる指標を②、③の欄に記入し、⒝欄の値については、小数点第 3 位を四捨五入し、単位をカッコ内に明記すること。(設問 2 )
D 社の財政状態および経営成績について、同業他社と比較して D 社が優れている点と D 社の課題を 50 字以内で述べよ。
step
1設問の要求事項の把握
まず、設問の要求事項(何が問われているか)を正しく把握します。
設問1では、以下の事項が問われています。
- 同業他社と比べ、優れている指標を1つ、課題を示す(=悪い)指標を2つ答える
- 優れている指標を①に、課題を示す指標を②・③に書く
- 指標の名称は(a)欄に、数値は小数第3位を四捨五入し、(b)欄に書く
設問2では、以下の事項が問われています。
D社が同業他社より優れている点とD社の課題を50字以内で書く
設問の要求事項は結構複雑です。
本番の緊張感の中で、あわてて問題を解くと以下のようなケアレスミスが起こりがちです。
起こりがちなケアレスミス
- 指標の種類(良い/悪い)を間違える
- 回答欄を間違える
- 四捨五入の位置を間違える
- 単位を書く/書かないを間違える
ちなみに、こうしたケアレスミスをするとまず合格できません。
だからこそ、設問の要求事項は、何度も読んで正確に把握しましょう。

step
2収益性の指標選定
設問の要求事項を把握したら、次に収益性の指標を選定します。
収益性の指標は、ほとんどの問題は以下3つのどれかになります。
指標 | 計算式 |
売上高総利益率 | 売上総利益÷売上高×100% |
売上高営業利益率 | 営業利益÷売上高×100% |
売上高経常利益率 | 経常利益÷売上高×100% |
比較対象(自社VS他社、今年VS去年)の間で、どのような違いがあるかによって、選ぶべき指標が変わります。
具体的には以下のように選びましょう。
指標 | こんなときに選ぶ |
売上高総利益率 | 売上原価に差がある |
売上高営業利益率 | 販管費に差がある |
売上高経常利益率 | 営業外損益(特に支払利息)に差がある |
では、実際にD社と同業他社の財務諸表を見ていきます。
収益性は、損益計算書(PL)で比べることができます。
収益性はPLだけで比べられる
損益計算書を見ると、D社は同業他社と比べて明らかに販売費及び一般管理費が高いですね。
売上高はさほど変わらない(同業他社が20%くらい高い)のに対し、D社の販売費及び一般管理費は同業他社の3倍弱もあります。
ということで、売上高営業利益率を選びます。
D社の売上高営業利益率を計算すると、18÷1,503≒1.20%となります。(四捨五入のルールに注意)
このように、財務諸表から読み取れる事実を基に指標を選ぶのが、経営分析の得点を伸ばすコツです。
知っている指標を適当に選ぶのでは不十分なのです。
ポイント
自社・同業他社の指標を全部計算して比べるのでなく、財務諸表を見比べて明らかに差があるポイントを見つけ出し、そこだけ計算するように解きましょう。
その方が圧倒的に時間を短縮でき、事例全体の得点アップにつながります。
step
3効率性の指標選定
続いて、効率性の指標を選んでいきます。
効率性とは、「少ない資産で効率良く売上を生んでいるか?」ということです。
効率性の指標は、ほとんどの問題は以下3つのどれかになります。
指標 | 計算式 |
有形固定資産回転率 | 売上高÷有形固定資産(回) |
売上債権回転率 | 売上高÷売上債権(回) |
棚卸資産回転率 | 売上高÷棚卸資産(回) |
比較対象(自社VS他社、今年VS去年)の間で、どのような違いがあるかによって、選ぶべき指標が変わります。
具体的には以下のように選びましょう。
指標 | こんなときに選ぶ |
有形固定資産回転率 | 土地・建物の残高に大きな差がある |
売上債権回転率 | 売上債権の残高に大きな差がある |
棚卸資産回転率 | 棚卸資産の残高に大きな差がある |
では、実際にD社と同業他社の財務諸表を見ていきます。
効率性の比較は、貸借対照表と損益計算書の両方を見る必要があります。
効率性は、BS・PL両方を見て比べる
D社と同業他社を比べると、D社は有形固定資産(土地・建物)の残高が同業他社の2倍あります。
一方、売上高は同業他社より低い水準です。
つまり、「D社は、有形固定資産(土地・建物)をたくさん持っているのに売上につながっていない(=資産効率が悪い)」ということが分かります。
ということで、有形固定資産回転率を選びます。
D社の有形固定資産回転率を計算すると、1,503÷88≒17.08回となります。
なお、効率性の指標の単位は「回」なので気をつけましょう。
ちなみに、効率性で最も多く出題されるのは、有形固定資産回転率です。
「売上が悪い店舗がある」「遊休地(何にも使っていない土地)がある」などの記述が与件文にあれば、ほぼ有形固定資産回転率とみて間違いありません。
step
4安全性の指標選定
続いて、安全性の指標を選んでいきます。
安全性とは、現金の支払能力や、資本構成(資金調達の方法)を指します。
安全性の指標は、候補となる指標が多く、以下の5つが代表的な指標です。
指標 | 計算式 |
流動比率 | 流動資産÷流動負債×100% |
当座比率 | 当座資産÷流動負債×100% |
固定比率 | 固定資産÷自己資本×100% |
固定長期適合率 | 固定資産÷(自己資本+固定負債)×100% |
自己資本比率 | 自己資本÷総資本×100% |
比較対象(自社VS他社、今年VS去年)の間で、どのような違いがあるかによって、選ぶべき指標が変わります。
具体的には以下のように選びましょう。
指標 | こんなときに選ぶ |
流動比率 | 流動資産に大きな違いがある |
当座比率 | 現預金・売上債権に大きな違いがある |
固定比率 | 固定資産に大きな違いがある |
固定長期適合率 | 固定負債に大きな違いがある |
自己資本比率 | 負債に大きな違いがある |
では、実際にD社と同業他社の財務諸表を見ていきます。
収益性は、貸借対照表(BS)で比べることができます。
安全性はBSだけで比べられる
D社は同業他社と比べると負債が少ない資本構成であることが明白です。
具体的には、短期借入金の額が大違いですね。
ということで、自己資本比率を選びます。
D社の自己資本比率を計算すると、179÷503×100≒35.59%となります。(単位や四捨五入に注意)
ちなみに、安全性でよく出題されるのは自己資本比率です。
たいていは、比較対象のどちらかの借入金が多いパターンです。
負債比率(負債÷自己資本)もよく使われる指標ですが、負債比率と自己資本比率は本質的には同じ指標です。そのため、自己資本比率だけ覚えておけば良いでしょう。
step
5記述問題への回答
先ほどのstep4までで、設問1(指標の計算)までは解けました。
経営分析では、設問2に記述問題が出題されます。
内容は、設問1で計算した指標を基に、事例企業(D社)の財政状態・経営成績を40~60字程度で書く、というものです。
経営分析の記述問題には、回答のテンプレートがあります。それがこちら。
○○(原因)により、○○性が高い/低い
収益性・効率性・安全性の3要素すべてについて、原因と結果(高い/低い)をセットで答えるのが基本です。
このテンプレートを使い、字数制限におさまるように書きます。
サンプル(平成30年度事例Ⅳ第1問)の設問2を再掲します。
(設問 2 )
D 社の財政状態および経営成績について、同業他社と比較して D 社が優れている点と D 社の課題を 50 字以内で述べよ。
制限字数は50字ですね。回答例は以下のようになります。
D社は、借入金が少なく安全性が高い。一方、土地・建物が多く効率性が低く、販管費が多く収益性が低い。(49字)
収益性・効率性・安全性のすべての要素に触れつつ、原因と結果を入れこんでいますね。
このように回答すれば、満点が取れます。
ちなみに、この原因・結果にもお決まりのパターンがあります。
代表的なものを整理ました。
指標 | 定番パターン |
収益性 |
|
効率性 |
|
安全性 |
|
大抵の問題は上記の定番パターンで説明できます。
ポイント
【原因】の部分は、まずは与件文の記述から当てはまる箇所を探しましょう。
販管費の負担が重い、稼働率の低い店舗がある、といった事実が与件文に書かれていることも多いです。
与件文に適当な記述が無ければ、財務諸表の数字から読み取れる事実を答えましょう。
経営分析は、きちんと勉強すればほぼ確実に満点が取れます。
この記事でお伝えしたポイントを踏まえて、何度も過去問を演習しましょう。
②:意思決定会計は難しければ捨てる(部分点を狙う)
第3問によく出題されるテーマが「意思決定会計」です。
内容としては、いくつかの投資案の現在価値を算出し、最適な案を選ぶというものです。
結論から言うと、意思決定会計は捨て問にしても良いです。
なぜなら、意思決定会計の問題は難易度が非常に高く、時間をくわれる割に得点につながりにくいからです。
得点につながりにくいということは、周りの受験生との差もつきにくいということ。
意思決定会計にハマって時間を浪費するくらいなら、比較的簡単な経営分析や損益分岐点分析(CVP)の検算に時間をまわしましょう。

ただし、事例Ⅳは部分点が割と入りやすい科目です。
あまり時間をかけずにわかる部分までは書いておき、部分点を狙いましょう。
また、「最適な投資案はどれか」という問題には、とりあえず勘でどれかを書いておきましょう。
勘であっても、当たれば部分点が入ります。
投資案の名前は数字だったりローマ字だったりするので注意しましょう。
③:記述問題を得点源にする
事例4では、経営分析以外にも何問か記述問題が出題されます。
実は、事例4の記述問題は、基本的な知識だけで回答できる簡単な問題が多く、得点源化が狙えます。
たとえば、令和2年度の第3問を見てみましょう。
第3問(配点 20 点)
D 社は、リフォーム事業の拡充のため、これまで同社のリフォーム作業において作業補助を依頼していた E 社の買収を検討している。当期末の E 社の貸借対照表によれば、資産合計は 550 百万円、負債合計は 350 百万円である。また、E 社の当期純損失は 16 百万円であった。
(設問 1 )
D 社が E 社の資産および負債の時価評価を行った結果、資産の時価合計は 500百万円、負債の時価合計は 350 百万円と算定された。D 社は 50 百万円を銀行借り入れ(年利 4 %、期間 10 年)し、その資金を対価として E 社を買収することを検討している。買収が成立した場合、E 社の純資産額と買収価格の差異に関して D 社が行うべき会計処理を 40 字以内で説明せよ。(設問 2 )
この買収のリスクについて、買収前に中小企業診断士として相談を受けた場合、どのような助言をするか、60 字以内で述べよ。
長々と書いていますが、要は、時価純資産より安く企業を買ったときの会計処理(設問1)とリスク(設問2)を尋ねている問題です。
一次試験の基礎知識が身についていれば、これは「負ののれん」の問題だと分かります。
設問1なら「買収額と時価純資産額の差額を特別利益に計上する」ですし、設問2は、「超過収益力がマイナスなので、買収後の連結決算に悪影響をもたらす」点や「簿外債務や損害賠償請求のリスクが存在する」なとど書けば得点できます。
いずれも、テキストの基礎知識だけで答えられます。
逆に、一次試験の基礎知識が抜けていると全く答えられません。
ファイナルペーパーを作るなどして、一次試験の基礎知識はしっかりと固めておきましょう。
まとめ:経営分析を固め、難関科目を乗りきろう!
今回は、中小企業診断士二次試験の科目「事例4(財務・会計)」の内容や勉強法を紹介しました。
最後に、本記事の内容をまとめたいと思います。
- 事例4(財務・会計)は、二次試験の合否をわける重要な科目
- 攻略のポイントは①経営分析を絶対に落とさない②意思決定会計は難しければ捨てる③記述問題を得点源にするの3つ
本記事を読んだ人は、事例Ⅳの得点力が少しはアップしているはずです。
私の二次試験の解法と、二次試験の過去問解説をnoteにアップしていますので、ぜひ皆さまの勉強にご活用ください!